Polyvox(Polivoks/Поливокс、ポリヴォクス)を持っていた人に「何が得意な楽器か」と聞くと、答えはすぐに返ってきます。ベースです。エフェクターもプラグインも通していないのに、もう歪んで聴こえる、太くて少し壊れたベース。Gordon Reid が2010年に書いた Sound On Sound の回顧記事は、そのレシピをあっさり書いています。オシレーターは2つともノコギリ波、レベルを上げ、ローパスフィルターをオーバードライブさせる。
1982年のハードウェアでこのレシピが効くのは、ミキサーの設計にある一つの判断のおかげです。Duovox でも同じように効くのは、フィルターの後段にドライブつまみを足す代わりに、その判断そのものをモデル化したからです。ここからパッチを順番に組んでいきます。スクリーンショットはすべてプラグインのもの、プレイヤーはすべてプラグインのレンダリングで、プレイヤーのつまみは実際に回せます。
16フィートのノコギリ波を2つ
Duovox を開いてプリセットバーから Init を選び、2枚のジェネレーターのプレートへ。RANGE セレクターを両方とも 16'、WAVE セレクターを両方ともノコギリ波(左から2番目のアイコン)にします。それから VCO II の DETUNE をほんの少しだけ右へ。パネルの目盛りでは 0 をわずかに越えた程度、数字にすると約0.1半音です。
16'ノコギリ波16'ノコギリ波+0.1 stこのわずかなデチューンで2つのノコギリ波の位相がずれたり重なったりを繰り返し、音を伸ばしているあいだにベースがゆっくり太くなったり細くなったりします。もっと回すとはっきりしたコーラスの揺れになり、パッドには合っても、ベースラインには邪魔です。「低音を増やしたい」なら 32' に手が伸びますが、いちばん下の鍵盤では20 Hz 前後まで下がってしまい、聴こえるのは倍音のジリジリばかりで音程はほとんど残りません。
フィルターを全開に、ミキサーを控えめな 3 にしたときのオシレーターの音です。明るくてジリジリしていて、少し安っぽい。ポリヴォクスのベースらしさは、すべてこの先の2枚のプレートで生まれます。
フィルターが音を上げるまでミキサーを上げる
ポリヴォクスのミキサーは、オペアンプ1つのごく普通の加算回路です。各入力にはフィードバック経路と同じ22 kΩ の抵抗が入っているので、どのチャンネルもユニティゲインで通り、合計を抑えるものは何もありません。ノコギリ波はオシレーターから約10ボルト(ピーク・トゥ・ピーク)で出てきます。それが2つ全開で重なると、フィルターは想定外の大きさの信号を受け取ることになります。
ウラジーミル・クジミンはフィルターの中で、オペアンプ К140УД12 を2つ、電流制御の積分器として使いました。専用のコンデンサーは持っていません。入力の手前には約1:48の分圧が入っていて、フィルター入力で見ると、およそ3ボルトあたりで飽和が始まります。オシレーターを2つとも 6 にすれば、とっくにその先です。積分器が飽和し、しかもそれがフィルターのループの中にあるので、歪みはカットオフとレゾナンスの動きにそのまま付いていきます。
66ミキサーの VCO I と VCO II を 6 に。NOISE と EXT はひとまず 0 のままです。プレイヤーで試してみてください。つまみはミキサーの2つのレベルを同時に動かし、クリップは音量をそろえてあるので、聴こえる変化は音色の変化です。
3 より下は、弾むようなきれいなシンセベース。4 を越えるとフィルターが音をつぶし始め、音が詰まって重くなり、低域が音の大部分を占めるようになります。このクリップそのものを測ってみると、ピークと平均レベルの差はミキサー 1 で約11.5 dB、ミキサー 6 で約6 dB まで縮んでいました。コンプレッサーやファズがやることと同じです。6 まで行くと、みんなが「ポリヴォクスのベース」と言うときの音になります。ミックスで暴れすぎるなら、ほかの何かに手を出す前に、まずミキサーを 4 か 5 まで戻してください。この楽器ではミキサーがドライブつまみです。
フィルターを閉じて、エンベロープで開く
FILTER プレートでは、モードスイッチを LP のままにします。CUTOFF(カットオフ)を低めの 1.7 前後、RESONANCE(レゾナンス)を 2.7 前後に。続いてフィルター用のエンベロープを設定します。ENVELOPE の量を 3.3、ATTACK は最小、DECAY は 2.7 前後、SUSTAIN は 0.9、RELEASE は短く。
ディケイ0.9≈1.7≈2.73.3このローパスは12 dB/オクターブで、Moog のラダーの半分の傾きしかありません。閉じたポリヴォクスのフィルターでも高い倍音がかなり抜けてくるので、小さなスピーカーでもベースが聴こえます。このプレイヤーでカットオフを回し、低い設定に耳を澄ませてみてください。そこで聴こえるザラつきは本物です。クジミンは、制御電流が小さいとチップの出力段に「段差」が生じると書いています。いわゆるクロスオーバー歪みで、カットオフを下げるほど強くなります。
レゾナンス
たいていのフィルターでは、入力が大きいままレゾナンスを上げると、細くなったベースの上でピーッと鳴るだけになります。ここでは飽和した積分器がレゾナンスのピークを圧縮するので、ミキサーが熱いほどレゾナンスは抑えられます。思ったより上げても、ベースの低音は残ります。
ベースラインに使いやすいのは 2 から 3 です。音がしゃべり出すには十分で、ボーカルとぶつかるほどではありません。5 を越えると、ベースの上にリードが乗ったような音になります。そちらは別のチュートリアル(フィルターの叫び)で扱います。
エンベロープの量とディケイ
ベースが「はじく」か「押す」かは、この2つで決まります。エンベロープの量は、1音ごとにフィルターがどこまで開くか。ディケイは、どれだけ速く閉じていくかです。
回路図から読み取れる限り、オリジナルのカットオフはヘルツに対してリニアです。100 Hz から10 kHz までスイープすると、最初の1オクターブはつまみの動きの約1パーセントで通り過ぎ、残りのほとんどは上の2オクターブで過ごします。そのためエンベロープは下から一気に「パチン」と開き、そのあと高いところに長くとどまります。Duovox は初期設定でこのカーブを使っています。おなじみのエクスポネンシャルなスイープがよければ、リアパネルに Cutoff Law スイッチがあります。
短く、しっかりしたアンプエンベロープ
AMPLIFIER プレートでは、アタックを最小、DECAY を中くらい、SUSTAIN を 5 前後、RELEASE を短めに。エンベロープのモードスイッチは、エンベロープ1つのアイコンのままにしておきます。これで鍵盤を押さえているあいだはベースが鳴り続け、離せば止まります。速いリフでも締まって聴こえます。
ディケイ5.1リリースパッチはこれで完成です。Duovox では BASS バンクの最初のプリセット Soviet Monster Bass として入っていて、このページのいちばん上のスクリーンショットがそれです。
同じ発想から6つのベース
ミキサーさえ熱くしておけば、ちょっとした変更でまったく違うベースになります。VCO I のノコギリ波を 32' の三角波に、VCO II を矩形波に替えると、上にザラつきの乗った丸いサブベースに。VCO II FM つまみで VCO II から VCO I を変調すると、ベースがうなり始めます。ミキサーに NOISE を少し足すと、すり減ったテープのようなヒスが乗ります。プレイヤーでは、1つのリフをファクトリーバンクの6つのプリセットで鳴らしています。
スライド
1982年のパネルにレガートスイッチはありませんが、マスタープレートの GLIDE で用は足ります。前の音を離す前に次の音を弾けば、ピッチがスライドします。オリジナルのグライドは RC 回路なので、スライドは最初が速く、目的の音に近づくにつれてゆっくりになります。
どこに置くか、何をいじらないか
このベースは最初から歪みもコンプレッションも持っているので、きれいなシンセベースより処理は少なくて済むことがほとんどです。30 Hz あたりのハイパスで、下の鍵盤から出るサブのゴロつきを片付けます。キックとぶつかるなら、EQ に手を伸ばす前にアンプのディケイを短くしてみてください。それから、ドライブはミキサーにあるので、ミキサーを 3 にしたもう1つのインスタンスを用意すれば、サビで重さが欲しいときに下に混ぜられるクリーンなレイヤーになります。
別のところから始めたいなら、フィルターのレッスンは叫ぶリードへ、ループするエンベロープは押さえた1音をリズムに変え、サウンド・プレイグラウンドではパネルのすべてのコントロールを回して、それぞれ何をするのか聴けます。

- 1982年のパネルをつまみ単位で完全再現。フィルターの叫び、ループするエンベロープ、デュオフォニックも
- 2チップ・フィルターを4倍/8倍オーバーサンプリングでモデル化し、実機の録音で校正
- 10バンクと5パックに257プリセット、ベースやリードやスクリームを作る GEN ボタン
- 1982年の実機にはない機能も:ポリモード、ベロシティ、ピッチベンド、ドリフト、リアパネル
