Polyvox(Polivoks/Поливокс、ポリヴォクス)の LFO は1つだけで、モジュレーターと呼ばれています。設計者のウラジーミル・クジミンはこれについて小さな判断をひとつしていて、それが楽器全体の弾き心地を変えています。矩形波が上にしか動かないのです。矩形波をピッチにかけて鍵盤を押さえると、揺れるのではなくトリルになります。
このページでは、私たちの再構築版 Duovox でモジュレーターのプレートを見ていきます。4つの波形、トリル、クジミン自身が設計についての記事(ロシア語)で紹介している4音の和音、ランダムな音、そしてサイレン。画像はすべてプラグインのもの、プレイヤーはすべてプラグインのレンダリングです。
コントロールは2つ、デプスつまみはなし
モジュレーターは左上、マスタープレートの上にあります。RATE つまみ(ЧАСТОТА)と、4ポジションの大きな SHAPE スイッチ(РЕЖИМ)。時計回りにアイコンは三角波、矩形波、ノイズ、サンプル&ホールドです。クジミンの記事にも同じ4つが挙がっています。ノコギリ波はありません。
このプレートにないのは、デプスのコントロールです。モジュレーターは1つの信号を4か所に送り、受け取る側のブロックがそれぞれ自分の MODULATION つまみ(МОДУЛЯЦИЯ)で、どれだけ受け取るかを決めます。この構成はあとで効いてきます。同じ矩形波を、ピッチにはある量で、フィルターには別の量で送れるからです。
波形レート押さえた1音で、4つの波形を聴いてみます。ミキサーに入っているのは VCO I だけで、その MODULATION つまみは 3.1、レートは約4 Hz です。
三角波は、音の上下に振れるビブラート。矩形波はトリルです。ノイズとサンプル&ホールドはどちらもランダムですが、速さがまったく違います。S&H はレートつまみの1周期ごとに新しい値を拾って保持するので、ピッチは段から段へ跳びます。ノイズは絶えず変化していて、メロディとして聴き取るには速すぎます。
上にしか動かない矩形波
クジミンは2つの周期的な波形を正確に説明しています。三角波はゼロボルトを中心に対称。矩形波は「プラスのパルス」で、デューティ比は2(ロシア式の言い方で、50 %のこと)。各周期の半分はモジュレーターが何も足さず、残り半分は一定の電圧を足します。ピッチ入力にかければ、押さえている音からその上の音へ跳んで戻る動きになり、彼はこれを2音のトレモロと呼んでいます。
バイポーラーの矩形波を持つ現代のシンセでは、上の音と下の音を行き来することになり、効果は別物で、使いどころも少なくなります。ポリヴォクスのやり方なら、弾いている鍵盤の音がいつもいちばん下の音なので、音程を自分で選んでおけば、メロディにかけたトリルもキーから外れません。
その音程を決めるのが MODULATION つまみです。Duovox では、つまみの最初の3分の2が音楽的な音程として読めるように割り当ててあります。約 1.2 で半音、1.7 で全音、2.1 で短3度、3.2 で5度、4.2 で1オクターブ。6 では2オクターブ跳びます。
このクリップのピッチを測ると、目盛りどおりでした。1.7 では押さえた C が C と D のあいだで、3.2 では C と G のあいだで、4.2 では C と1オクターブ上の C のあいだでトリルします。ハードウェアのパネルには 0 から 6 の目盛りしかないので、実機ではトリルを耳で合わせることになります。Duovox なら数値で決められます。
Duovox のモジュレーターの矩形波は、エッジがわずかに丸めてあります(出力に小さな RC が入っています)。そのため、ピッチは2つの音のあいだを時間ゼロで切り替わるのではなく、1ミリ秒よりずっと短い時間で移ります。
クジミンの「1鍵盤で4音」
モジュレーターでいちばん知られたパッチは、クジミン自身の文章に出てきます。2つのオシレーターをある音程にデチューンし、両方に矩形波でトリルをかける。すると各オシレーターが2音を交互に鳴らします。レートが5から7 Hz になると、耳はピッチの速い切り替えとしてではなく、少し振幅変調がかかった状態で同時に鳴っている音として聴くようになる、と彼は書いています。2つのジェネレーターを両方使えば、1つの鍵盤から4音の和音になるわけです。
1.71.7+3 stDuovox ではこのパッチが Trill Chord です。8' のノコギリ波オシレーターを2つ、VCO II を3半音(短3度)高くデチューン、MODULATION つまみは両方 1.7(全音)、モジュレーターは矩形波で約5.7 Hz。C を押さえると、VCO I から C と D、VCO II から E♭ と F が聴こえます。プレイヤーでは3段階で組み立てています。
トリルに聴こえるか和音に聴こえるかは、レートつまみ次第です。3 Hz より下では、音が交代で鳴っているのがはっきりわかります。クジミンの言う5から7 Hz あたりで、1つの鳴り響く音に溶け合います。20 Hz まで上げると、切り替えが速すぎて音色そのものがザラついてきます。
デチューンを変えると、和音の性格が変わります。+4半音(VCO II を長3度上)なら C、D、E、F♯ になり、明るく、もっと奇妙な響きに。MODULATION つまみを両方 2.1 にすると、各オシレーターが全音ではなく短3度でトリルします。
信号は1つ、MODULATION つまみは4つ
デプスが受け取る側にあるので、同じ矩形波にまったく違う仕事を同時にさせられます。MODULATION つまみは VCO I、VCO II、フィルター、アンプの4つ。1つだけ上げてほかは 0 にしてもいいし、全部を別々の量にしてもかまいません。
VCO IVCO IIフィルターアンプ次のプレイヤーでは、モジュレーターを固定したまま(矩形波、約4 Hz)、短いメロディの上で送り先を変えていきます。VCO I だけなら、変化しない VCO II の上で VCO I が5度のトリルをするので、どの音にも跳ねる上声部が付きます。両方のオシレーターなら、音全体が跳ねます。フィルターにかければカットオフが開閉し、アンプにかければレベルが刻まれます。
アンプの入力については少し補足を。オリジナルには VCA が2つ直列に入っていて、1つ目をモジュレーターが、2つ目をアンプエンベロープが動かします。三角波ならトレモロになり、ファクトリープリセットの Tremolo Organ は、8' と 4' の矩形波2つにこれをかけています。つまみの大部分の範囲では、音量の落ち込みは穏やかです。Duovox のエンジンから読み取ると、谷の深さは 3.3 で約1.4 dB、4.2 で約3 dB、5.1 で約7.5 dB、6 では1周期ごとに谷底で無音まで落ちます。プレイヤーでも同じカーブが見えます。クリップ全体でのレベルの標準偏差が、0 の0.6 dB から 6 の4.8 dB まで大きくなっています。
矩形波をアンプにかけると、ピッチのトリルが上にしか動かないのと同じ理由で、レベルが削られるのは各周期の「オン」の半分だけです。トレモロというより、刻むようなゲートになります。エンベロープに触らずにパッドにリズミカルなスタッターを付けるには、これがいちばん手軽です。
サンプル&ホールドとノイズ
サンプル&ホールドは、レートつまみの1周期ごとにランダムな値を拾い、次まで保持します。ピッチにかければ段々に跳ぶランダムな音、フィルターにかければ跳ねるカットオフ。Gordon Reid は Sound On Sound の回顧記事で、そのいちばんの使い道を挙げています。ピッチとフィルターにかけた S&H をループするエンベロープと組み合わせると、ランダムな変化がエンベロープのリズムにそろったり、ずれていったりする、と。
ファクトリープリセットの Random Computer は、その教科書どおりの形です。4' の矩形波、S&H は約8.6 Hz、VCO I の MODULATION は 3.6(ステップは鍵盤の上下約8.6半音まで届きます)、フィルターの MODULATION は 2.1。ピッチと明るさが同じクロックで変わります。
ノイズのポジションは別物です。送り先に速いランダムな電圧を送り、レートつまみでは遅くなりません。ピッチにかけてもメロディにはならず、音がにじみます。押さえた G の倍音と倍音のあいだにあるエネルギーを測りました。0 ではゼロ、1.2 で約2 %、2.7 で約44 %、3.6 で約4分の3。実際には、少しだけなら音がすり減って不安定に聴こえ、たくさんかけると音程のまわりに息とザラつきがまとわりつきます。この楽器についての Etheroneph の記事は、効果音にまさにこれを勧めています。少しのグライドと、慎重に合わせたカットオフとレゾナンスと組み合わせて。
サイレン、ビーコン、ロボット
三角波を遅くして深くかければ、どのシンセの持ち主も最初の1時間で見つける空襲警報のサイレンになります。Siren Lead は 4' の三角波オシレーターに、いちばん遅い三角波のモジュレーター(Duovox では0.7 Hz)、VCO I の MODULATION は 3.6 で、ピッチを鍵盤の上下約8.6半音にわたってスイープします。Sputnik Beacon は同じオシレーターのまま、モジュレーターを約6.5 Hz の矩形波に切り替え、デプスを1オクターブにしたもの。Siren Trill は2つのオシレーターを約4.3 Hz で4度上にトリルさせます。ニューメタルのサイレンのラインのために作った METAL パックのプリセットです。
Robot Talk はレゾナンスの効いたバンドパスのカットオフに S&H をかけていて、フォルマントが段々に跳ぶ、階段でできた声のようになります。Dice Melody は2つのオシレーターに S&H をかけ、アンプエンベロープをループさせているので、1つの鍵盤を押さえるだけで、短い音のランダムな旋律が鳴ります。
トリルはベースにも使えます。Square Trill Bass は約3.8 Hz で2つのオシレーターを5度上げるので、押さえた低音1つがルートと5度のあいだでポンプします。1つの鍵盤からリフを作る手っ取り早い方法で、いちばん低い音が動かないぶん、思ったよりトラックの下に収まります。
1982年のパネルになかったコントロール
Polyvox にはモジュレーションホイールも、ピッチベンダーもありません。クジミンによれば、どちらも計画されていたものの、設計チームが期限までに仕上げられず見送られました。のちに作ったジョイスティックは、代わりに Formanta Maestro に載っています。そのためオリジナルでは、ビブラートはオン(MODULATION つまみを上げる)かオフかのどちらかです。
Duovox はフロントパネルを当時のまま残し、ホイールをリアパネルに加えました。MIDI のモジュレーションホイールは、MODULATION つまみの設定に上乗せする形で、2つのオシレーターのピッチにモジュレーターの信号を足します。その量を決めるのが WHEEL > VIB で、100 %ならホイールいっぱいで半音ぶん、初期値の50 %ならその半分です。同じモジュレーターを使うので、ホイールは波形スイッチに従います。三角波ならビブラート、矩形波なら上への小さなトリル、S&H ならランダムな揺らぎです。

ホイールでビブラートではなく深いトリルをかけたいなら、WHEEL > VIB を 0 にしたまま、DAW から VCO の MODULATION つまみをオートメーションしてください。普通のプラグインパラメーターです。
モジュレーターは、この楽器の3つの動きの源のひとつにすぎません。残りの2つはループモードのフィルターエンベロープとアンプエンベロープで、ループするエンベロープのチュートリアルで扱っています。オーディオレートの変調、つまり VCO II が VCO I を曲げる話はFM とリングモジュレーションのチュートリアルに、工場の取扱説明書に載っていた風や雨や銃声は効果音にあります。

- 1982年のパネルをつまみ単位で完全再現。フィルターの叫び、ループするエンベロープ、デュオフォニックも
- 2チップ・フィルターを4倍/8倍オーバーサンプリングでモデル化し、実機の録音で校正
- 10バンクと5パックに257プリセット、ベースやリードやスクリームを作る GEN ボタン
- 1982年の実機にはない機能も:ポリモード、ベロシティ、ピッチベンド、ドリフト、リアパネル
