ソ連は1970年代から80年代にかけて、カチカナルからムーロム、ジトーミルまで各地の工場で、独自のシンセサイザーや電子オルガン、ドラムマシンを作っていました。国外で売られたものはほとんどなく、今ではどれも希少です。そのなかでソフトウェアとして本格的にモデリングされたのは1台だけ、Polyvox(Polivoks/Поливокс、ポリヴォクス)です。残りはサンプル・ライブラリか、わずかなフリーウェアになっているか、何も残っていません。
私たちはポリヴォクス系プラグインのひとつ Duovox を作っているので、このページの中心は Duovox です。そのことは最初にお断りしておきます。ほかの製品はすべて、メーカー、価格、形式、そして確認したページへのリンクつきで載せています。フォーラムの書き込みや検索結果の断片でしか確認できなかったものは載せていません。試聴プレーヤーはすべて Duovox です。
5つの波形VCO II FM1 / 2 ボイスLP / BPソフトウェアがあるソ連の楽器
| 楽器 | どんな楽器か | 現在のソフトウェア |
|---|---|---|
| Formanta Polivoks | デュオフォニック・シンセ、1982年 | モデリング・シンセ(Duovox、Atomika)、フィルター・エフェクト、Kontakt ライブラリ、無料の32ビット VST |
| ANS | 光電式シンセサイザー、1957年または1958年完成 | Virtual ANS、無料のスタンドアロン・アプリ(プラグインではない) |
| Elektronika EM-25 | ストリングス、オルガン、ブラスのポリフォニック機 | Soundiron Elektronik 25、サンプリング、Kontakt 製品版 |
| Aelita、Altair 231、Maestro、Tom 1501 | ムーロム、ジトーミル、カチカナルのシンセ | Soviet Synths From Mars にまとめてサンプリング |
| Estradin 230 | ミニモーグ型のモノシンセ | Soviet Synths From Mars、SyncerSoft Estradion(無料、Win 32ビット) |
| Junost-70 | トランジスタ式電子オルガン、1970年代 | Rhythmic Robot Soviet Organ(Kontakt)、UltraRare Yunost 70 |
| Lell 電子オルガン | 小型オルガン、1980年代 | Elementary Sounds Drema、サンプリング |
| Lel UDS、Formanta UDS、Elista | アナログ・ドラムマシン | Tapechild UDS-16、Elsita-V、サンプルパック |
| Kvintet、Faemi、Formanta EMS-01、Alisa | プリセット・シンセ、オルガン、モノシンセ | プラグインは見つからず |
本格的なエミュレーションがあるポリヴォクス
ポリヴォクスはスヴェルドロフスクのヴェクトル(Vector)社でウラジーミル・クズミンが設計し、パネル・デザインをオリンピアーダ・クズミナが担当して、1982年からカチカナルのフォルマンタ(Formanta)無線工場で作られました(Sound On Sound、2010年)。クズミンは Red Bull Music Academy に、生産台数は2万5,000台、価格は920ルーブルで、ソ連国外では1台も売られなかったと語っています(RBMA、2016年)。5つの波形を持つ2基のオシレーター、VCO I を周波数変調できる VCO II、К140УД12 オペアンプ2基で組んだローパス/バンドパスの12dB フィルター、ループできる2つのエンベロープ、そして2音を1基のフィルターに通して弾ける鍵盤を備えています。
みんなが求めるのは、このフィルターの音です。クズミンのオペアンプ積分器は早めに飽和し、その前段のミキサーは上限なしのユニティゲインで信号を送り込みます(クズミン本人の記事)。そのためオシレーターを上げると、フィルター自体がドライブされます。
Soviet Monster Bass では、カットオフ0.6から1.8の間、クリップのスペクトル重心はほとんど動かず(約1,010Hz から1,050Hz)、3.6で1,330Hz、4.8で1,950Hz まで上がります。つまみの真ん中より下では明るさはほぼ変わらず、開いていくのは上半分です。
BPカットオフレゾナンス同じ回路からバンドパス出力も取り出せます。BP に切り替えると Bandpass Vox から低域が抜け、スペクトル重心は LP の約1.2kHz から BP の2kHz に上がり、クリップは約5dB 小さくなります。バンドパスが基音を削るためです。
VCO II はオーディオ・レートで VCO I を揺らせます。FM Bell Lead では、VCO I の三角波より1オクターブ少し上に矩形波の VCO II を置いていて、FM なしで約560Hz だったスペクトル重心が、4.8では1.1kHz になります。音の倍音列に乗らない音程に、部分音が加わっていくためです。
ポリヴォクスのプラグイン
- Monosounds Duovox私たちのモデル。1/2 ボイスのスイッチ、ゲートホールドのスイッチ、出力ミュートまで含めて1982年のフロントパネルをつまみ単位で再現し、追加機能(ポリモード、ベロシティ、ドリフト、キートラック)はリアパネルに。プリセット257。macOS 11以降の VST3/AU、Windows 10と11の VST3。発売時$29、その後$59。無料デモ版あり。Duovox ↗
- Cherry Audio Atomika2024年10月発売。モデリングで、モノとデュオフォニックのモードに加えて最大16ボイスのポリ、追加のフィルターモード、アルペジエーター、エフェクトを搭載。VST、VST3、AU、AAX、スタンドアロン。定価$49。Cherry Audio ↗
- Cherry Audio FiltomikaAtomika のフィルターを、手持ちのオーディオにかけるエフェクトにしたもの。$19。Cherry Audio ↗
- Hideaway Studio Polivoxサンプリングの Kontakt ライブラリ、845サンプル、Kontakt 4.2.4以降の製品版が必要。$23.25(定価$27.90)。Best Service ↗
- Polyvoks Station、Polyakov無料、Windows の32ビット専用、2007年と2017年のもの。無料の Polivoks VST を参照。plugins4free ↗
レビューを含む詳しい比較はポリヴォクス系プラグインの全比較にあります。

Duovox はパネルの表記をオリジナルのキリル文字と英語で切り替えられます。どちらでも、つまみの位置は1982年のままです。
ムルジンの光電式シンセサイザー
ANS はここで最も古く、鍵盤シンセからいちばん遠い楽器です。エフゲニー・ムルジンが20年かけて作り、資料によって1957年または1958年に完成しました。ガラス円盤に焼き付けた正弦波の光が、黒いマスチックを塗ったガラス板を通り抜けます。このマスチックを引っかいて楽譜を描くと、光電セルが光を音に変えます。縦軸が音程、横軸が時間です。現存するのは1台だけで、モスクワのグリンカ記念国立中央音楽文化博物館にあり、エドゥアルド・アルテミエフがタルコフスキーの『惑星ソラリス』(1972年)の音楽に使いました(Wikipedia、MusicTech、2015年)。
アレクサンドル・ゾロトフの Virtual ANS はこの仕組みを再現したもので、スペクトログラムを描くとそれが鳴ります。バージョン3.0.4は2025年10月に Windows、macOS、Linux 向けの無料ダウンロード(作者は寄付を募っています)として公開され、iOS 版と Android 版は有料です。VST や AU ではなくスタンドアロン・アプリなので、出力を DAW に録音して使います。
ポリフォニックの EM-25
「Elektronika(エレクトロニカ)」はソ連の多くの電子機器工場で使われたブランド名です。EM-25 は完全ポリフォニックの分周式で、ストリングス、オルガン、ブラスの各セクションが1基のフィルター、1基のアンプ、1つのエンベロープを共有します(Hollow Sun)。MusicTech は、見た目はソ連版のローランド Juno だが中身はより単純だと書いています。
Soundiron の Elektronik 25 は実機のサンプリングで、$29、3.6GB、2021年発売です。Kontakt 5.5以降の製品版が必要で、無料の Kontakt Player ではデモモードでしか動きません。EM-25 のモデリング版は見つからず、EM-26、EM-04、Spectr のシンセについても何も見つかりませんでした。
Aelita、Estradin など6台をひとつに
Aelita は3オシレーター、44鍵のモノフォニック・シンセで、1980年からムーロム無線工場で作られました(Wikipedia)。Estradin 230 は1980年代半ばのジトーミル製で、ゴードン・リードの SOS のレビューは、ミニモーグのレイアウトと音をかなり忠実に真似ていたと書いています。ポリヴォクスの工場カチカナルでは、ポリシンセの Maestro も作られていました。
どれもモデリングのプラグインはありません。Samples From Mars の Soviet Synths From Mars はこれらをまとめてサンプリングしたもので、Polivoks、Aelita、Altair 231、Estradin 230、Maestro、Tom 1501 の50プリセットと、Formanta UDS、Lell UDS、RMIF Elista のドラム100音が入って$39です。WAV、SFZ のほか、Ableton Live、FL Studio、Kontakt(製品版5.6.5以降)、Logic、Maschine、Reason 用のパッチがついています。Polyvoks Station を作った SyncerSoft は Estradin 230 の無料 VST Estradion も出していますが、これも32ビットの Windows 専用です。
Junost と Lell
Junost-70(Юность、ユーノスチ)オルガンはポリヴォクスより10年ほど古い楽器です。Rhythmic Robot の Soviet Organ は、その内蔵スピーカーと別体のスピーカー・セットの両方で録った音を収め、$37.50、Kontakt 4.2.3以降の製品版で動きます。UltraRare の Yunost 70 は、1970年から1973年にゲルマニウム・トランジスタで作られた同じオルガンの録音から組んだ$9のロンプラーで、Mac と Windows の VST と VST3 です。Elementary Sounds の Drema は1980年代の Lell 電子オルガンをもとにしたもので、Pulse Audio で$59で売られています。
ソ連のドラムマシン
Formanta UDS(Rockton の名でも売られました)は、ポリヴォクスと同じ工場で作られた7チャンネルのアナログ・ドラムシンセです(MusicTech)。この分野をカバーする製品は3つあります。
- Tapechild UDS-16:Lel UDS と Formanta Rockton に着想を得たモデルを持つ、16ボイスのモデリング・ドラムシンセ。VST3、AU、スタンドアロンで、macOS 11以降と64ビットの Windows 10、11に対応。$49(定価$79)。
- Digital Systemic Elsita-V(2020年):1989年から1991年に作られた4チャンネルのアナログ・ドラムマシン Elista をモデル化した、無料の VST、VST3、AU。寄付で4系統出力版が使えます。
- SampleScience 80s Soviet Drums:$20、Lel UDS、Formanta UDS、Elista を含む9台のサンプリングで、VST、VST3、AU。
ポリヴォクス自体もドラムを作れます。フィルターはセルフオシレーションできれいな音を出し、エンベロープを短くすればキック、タム、ザップになります。Duovox にはそうした音を集めた DRUMS バンクがあります(ポリヴォクスのドラム)。
ここではミキサーが0で、鳴っているのは発振するフィルターだけです。平均スペクトル重心は約2.3kHz。Formanta Whistle ではリアパネルのキートラックを最大にしてあるので、フィルターの音程が鍵盤に従います。
プラグインのないソ連の楽器
次の楽器は、ラテン文字とキリル文字の名前に「VST」「plugin」「Kontakt」「samples」を組み合わせて探しましたが、確認できるものは見つかりませんでした。
- Kvintet(Квинтет):クズミンがフォルマンタで設計した1986年のプリセット・ストリングス・シンセで、デチューン機能つき(MatrixSynth)。リードは初期フォルマンタでいちばん好きな機種だと書いています。
- Faemi:SOS が「最初に商業的に成功したロシアの電子鍵盤楽器」と紹介する、ウラジーミル・ルゴヴェツ設計の楽器。クズミンはそのポリフォニック版 Faemi-M の開発に関わりました。
- Formanta EMS-01:モノシンセを内蔵した2段鍵盤のオルガンで、クズミン本人が重すぎて信頼性が低かったと語っています(SOS)。
- リュベルツィの Alisa-1377 と1387。SyncerSoft が無料の Alice-1377 を作りましたが、KVR では入手不可になっています。
こうした楽器を持っていて録音したいなら、ソ連の楽器の多くはサンプル・ライブラリとしてソフトウェアになってきたので、この分野はまだ空いています。
どこから始めるか
ソ連のシンセサイザーを、つまみが当時のとおりに働く楽器として弾きたいなら、ソフトウェアがそろっているのはポリヴォクスで、1982年のパネルをそのまま残したのが Duovox です。同じフィルターを核にした大きな現代的シンセが欲しいなら Atomika。ソ連のストリングス・マシン、オルガン、そのほかのシンセの音なら、上で挙げたサンプリング・ライブラリが手頃で誠実な選択です。EM-25 なら Elektronik 25、6台まとめてなら Soviet Synths From Mars、Junost なら Soviet Organ か Yunost 70。ドラムなら Elsita-V は無料、UDS-16 はさらに先まで行けます。
Duovox のデモ版は、45秒ごとのノイズ、プリセット保存不可、オフライン書き出し不可という制限つきで楽器がまるごと使えるので、Mac でも Windows でも、決める前に試せます。
製品名は各社の商標です。比較のためにのみ記載しています。

- 1982年のパネルをつまみ単位で完全再現。フィルターの叫び、ループするエンベロープ、デュオフォニックも
- 2チップ・フィルターを4倍/8倍オーバーサンプリングでモデル化し、実機の録音で校正
- 10バンクと5パックに257プリセット、ベースやリードやスクリームを作る GEN ボタン
- 1982年の実機にはない機能も:ポリモード、ベロシティ、ピッチベンド、ドリフト、リアパネル